情熱トップインタビュー

VOL.28 柿沢直紀氏

<インタビュアー:林 信吾・山本 雄幸>
柿沢直紀氏 プロフィール
野菜を利用したスイーツ(野菜スイーツ)の専門店「パティスリーポタジエ」を運営する株式会社イヌイの代表取締役。年間約200日、日本全国の産地を飛び回り、農家や農業関係者、行政の方々と会い、実際に現場に立ち、土に触れている。現在の農業の実態を現場レベルで知り尽くし、現在は新しい農業、日本文化のあり方を模索し、提案、発信している。平成23年1月には六本木には魚ではなく野菜を利用したお寿司「野菜寿し」の専門店「野菜寿し ポタジエ」を開店。
株式会社イヌイ(沿革)
平成15年6月 宇都宮にオーガニックカフェ イヌイ開店(現在は閉店)
平成18年4月 中目黒にパティスリー ポタジエ開店
平成23年1月 六本木に野菜寿し ポタジエ開店
■パティスリー ポタジエHP → http://www.potager.co.jp/
-- 起業した頃のお話をお聞かせください。
柿沢: 27歳のときに会社を設立し、28歳で宇都宮市にオーガニックカフェ イヌイをオープンしました。当時は「ダメかもしれないけど、やってみる価値はある」という気持ちでした。
起業当時、私も現場に入っていました。普通、夫が料理を作り、妻が外でサービスするという構図だと思うのですが、当社の場合は逆です。妻が料理を作って、私が料理を運んでいました。
その他にも、経理や広報、経営そしてサービスと、飲食業が初めてで、経営も初めての身で全部やっていましたね。
-- 全国を飛び回り、農家の方とお話する中で得られる情報というのは、どの時期に何ができて、何が美味しいというようなことですか?
柿沢: それもあるんですが、もっと細かく言えば、どういう土づくりをやっているのか、今の土の状態はどうかということですね。あと、聞くだけではなく、こちらからも各地域の情報を与えています。だからこそ、その方からも情報をもらえますので。
日本の様々な地域の農業の現状に関する情報は、行政でも持っていない情報だったりします。様々な地域の成功例や失敗例などを、地域の農業を主軸とした6次産業化や活性化という様々な活動の中で、僕らがお手伝いするときに役立てられたらと考えています。
私たちは日本で一番農業寄りのお菓子屋で、農業寄りのお寿司屋だと思っています。そのためにも農業の現状は知らなければならないし、変えなければならないと思っています。
-- 農家のために尽力されているんですね。
柿沢: 農家の"ために"という気持ちはありません。"ために"というのは上から目線ですよね。そうではなく、農業の"おかげ"でケーキを作れていると思っています。農業がなければケーキ屋は成り立ちませんからね。
-- 商品開発も手掛けられているとお聞きしましたが。
神奈川の特産品をクローズアップした企画
ベジタブルハーバー
柿沢: 各地域の特産品や、生産者をクローズアップした企画、その地域の野菜を使ったケーキの開発なども手がけています。
有名なところであれば、横浜の「ありあけのハーバー」ですね。このハーバーの野菜バージョンの商品開発に携わりました。これは柿沢安耶が神奈川県の「食の大使」を務めている繋がりで、神奈川県と一緒に取り組んだプロジェクトですね。
神奈川県としては、 "お土産"ということで、神奈川県の食材を利用した、しっかりとした"土の産物"を作りたかったというわけです。そこで、神奈川県が「ありあけのハーバー」の製造元に話を持ちかけ、スタートしました。ですから、このお菓子の中には、三浦かぼちゃ、湘南ゴールド、津久井在来大豆など神奈川の特産品が入っています。
-- 農家の方から、自分のところの野菜も使って欲しいと殺到されるんじゃないですか?
柿沢: 土づくりをしっかりとしている畑で取れた野菜しか私たちは使いません。私の場合、実際に畑を見に行き、野菜を食べ、その生産者の農業哲学をお聞きしています。
-- お話を聞いていく中で、ポタジエというお店がどんどん拡大していくのでは?と思っているのですが。
(左)べジロール・トマト (右)キャロットチョコフラン
(パティスリー ポタジエ様ホームページより)
柿沢: 今まで、百貨店や商業ビルのデベロッパーなどからも出店のお誘いをいただきますが、丁重にお断りしております。それは、今は規模の時代ではないという考えが基になっているからです。私たちは"価値"は拡大しても、"規模"は拡大しなくて良いと考えています。売るのはモノではなくて、"コト"(価値、ストーリー)です。
ですから、この中目黒のポタジエも売り上げは特別上がらなくてもいいんです。このお店はとにかく美味しいお菓子をいつも作り、良いサービスができればそれで成立しています。。菓子屋ですが、ただ菓子を売らないというか。菓子をただたくさん売り続けるというのは、消費(規模)の社会ですよね。それはもう20世紀で終わっていると思います。私たちが作っているケーキの"価値"や"コンセプト(ストーリー)"を全国の方に買ってもらっている。それが重要なことだと思っています。
-- 規模を拡大していかない、ということで、従業員の方々の次の成長のステージ(昇格など)をどう用意してあげようとお考えですか?
柿沢: このお店(ポタジエ)の売り上げは維持していきますが、価値の拡大として、ポタジエのお店の価値、そのアジアでの価値、アメリカでの価値とどんどん拡大していくわけです。実際にアメリカや香港などでは、工場やビジネスパートナーの選定が進んでおり具体的に動き出しています。従業員にはそのようなところでも活躍してもらいたいと思っています。
-- 寿司屋を開店されたのにはどのような理由があるのですか?
柿沢: 私たちは、ケーキ屋でありながら、農業のこと、世界の食のニーズなども考えてきました。農業を俯瞰しつつ世界目線構想力で飲食業を考えた結果、お寿司屋開業にいたりました。
日本はお米と発酵の文化ですよね。あと、お寿司は社会コンテンツとして十分通用します。
これから食の産業において、寿司という世界中誰でも知っているようなものを私たちは一つのコンテンツとして売ることができるんです。今、そのコンテンツの売り先をどこにするのか決めています。まずはバルセロナなのかロンドンなのか、ハンブルクなのか。そして、それをアジアに展開していく予定です。世界に切り込んでいくためのコンテンツを今しっかりと育て、そのコンテンツをどんどん海外に発信していく、というのがこの数年の目標になっています。
-- 海外でも今後ビジネスを展開していかれるとのことですが、国内での動きというのはありますか?
柿沢: 2011年10月にオープンする、仙台の農産物直売所ではケーキ屋を併設します。地元の農家が出した野菜の売れ残りや、形の悪いものをケーキ屋がお菓子にし、お店で販売します。○○さんのトマト、□□さんの大根など、生産者のわかっているものが菓子になって出てくるんです。
ちなみに、農産物直売所はここ10年間、年間10%以上伸びている成長産業なんです。ただ、これから購買の中心となっている団塊世代の消費が落ちてくるのと連動して売り上げも頭打ちになっていくと思います。それで、戦略顧客である若い世代にも直売所に来客してもらいたいということで、このような取り組みを行うことになったんです。ですから、お菓子について勉強するため、農協の職員の方が2人、3ヶ月間、ポタジエのお店に研修に来ていましたよ。
株式会社 イヌイ
代表取締役 柿沢直紀 氏
ポタジエのお店一店舗では、野菜の使用量というところで言えば、使用できる野菜の量は限られているので日本の農業に大した応援ができません。ですから、日本の農業を応援する活動によって、世の中のノイズを上げたり、農業というもののイメージアップを図ったりしています。
あとは、農産物自体のブランド価値を上げていくということですね。川下(加工する側)でブランディングすることで、川上(農業)のブランディングにも繋げていきたいと考えています。そういうやり方で農業のイメージ、野菜の可能性というものを応援していきたいですね。
あとは、地域では、地元の特産品を活かしたお土産の開発やイベントなどを行っています。そうすることで、地域の生産者と消費者を結びつけることもできます。これは私たちしかできない応援の仕方だと思っています。
また、お寿司でもデモンストレーションの要望が増えていて、11月は小豆島で講演した後、小豆島の野菜を使ったお寿司のデモンストレーションをやります。そして、今後は、レストランと組み、地域の旬を全て盛り込んだお寿司屋のようなものもプロデュースできると考えています。
私たちが思うのは、かなり尖ったことをやり、価値をつくり、実績をつけることで国内でもコンテンツが売れるということですね。
野菜寿司
フランスに蕎麦屋が、ドイツにお団子屋が1万件あったらどう思いますか?日本人からすれば異常だと思うと思います。ただ、日本のお菓子業界ではそれが普通になっているんですよ。日本は受け入れるばかりなんです。
音楽に例えるならば、ビートルズのコピーバンドが多すぎるということ。ビートルズのコピーバンドでは、ビートルズを超えるバンドは生まれません。もっと日本の音色を世界に通用するメロディーに変えて奏でれば良いと思うんです。尺八、和太鼓、津軽三味線などの和の音色をギターやドラムと共に新しい曲として形づくる。オリエンタルな要素もありながら、西洋のメロディーにも沿ったようなメロディーができると世界でもウケる日本の音楽になっていくと思うんです。お菓子でも同じことです。
-- 柿沢様は日本の文化を世界に受け入れられるように形作っていく、コーディネーターになっていかれそうですね。
柿沢: 先駆者の方々の後を追いかける形になりますが、そういうことはすぐにでもやっていかなければならないと思っています。今日本のアニメやコミックが世界で評価されてきていますが、食文化に関しても日本の料理人や寿司職人が海外でもっともっと伝えに行ってもらいたいです。
-- やはり尖ることが大事になりますか?
柿沢: 振り子で言えば振り切ることですね。
私たちは世界一の魚のお寿司にはなれませんが、簡単に世界一の野菜寿司のお店を作れるんです。実際に今のお店は世界一だと思っています。まあ一軒しかないので当たり前ですが(笑)、野菜のこだわり方が違いますからね。野菜の調達から、調味料の選定まで。全て野菜に合うために考えに考え抜いていますから。野菜同士の相性や、煮方、焼き方、湯で方など、私たちはそこを熟知しています。
-- 最後に、柿沢様が情熱的な経営者だと思う方はどなたかいらっしゃいますか?
柿沢: 企業変革請負人の株式会社チェンジの福留さんですね。年に何度か一緒に食事して情報交換しているのですが、いつもいい刺激を受けています。
編集後記
柿沢様とは2、3年前に一度お会いしているのですが、その時、お話されていたことをこの数年で一つ一つ形にされていることは、やはり柿沢様のスゴさだと思います。
また、野菜スイーツもお世辞抜きに本当に美味しいです。私は何度もポタジエに通っています。思いだけでなく、味でもしっかりと成果を出しているのがこの野菜スイーツ専門店「ポタジエ」の強みではないでしょうか。
これからの柿沢様の手掛けられる「価値の拡大」、楽しみです。
インタビュアー 林 信吾
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