情熱トップインタビュー

VOL.26 出口治明氏

<インタビュアー:志水 康裕>
出口治明(でぐちはるあき)氏 プロフィール
大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。
出口氏は日本生命退社前にもインターネットを使った生保をやろうと考えたことがあった。いろいろな企業に出資協力を仰いだが、彼らの大株主は生命保険会社であるため、「大株主の機嫌を損ねたくない」と軒並み断られてしまった。ネットを使った生保が出てくれば、生保全体の価格破壊が起こると考えたからだ。
しかし、日本生命退社後、「若い人が子供を安心して育てることが出来る保険をつくろう」と再決意し、2006年に準備会社、ネットライフ企画株式会社を設立。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。現在に至る。
-- 今回のインタビューは、「組織は戦略に従い、戦略は思いに従う」をテーマにお話をお聴きします。事業をはじめた思いにはどのようなものがあったのですか?
出口: 生命保険会社は金融機関です。金融機関を作るためには、日本の現在の所得がどうなっているかを知ることが最も重要です。日本の平均所得は平均15~16%減少しています。その中でも、20、30代の子育て世代の所得が最も減少しています。人生の中で最もお金がかかることは子供を育てることです。若い人の所得が小さいことが最も大きな少子化の原因だと私は考えています。 ラッキーなことに、たまたま生命保険会社を作る機会を与えてもらえました。そこで、インターネットを使って、保険料を半額にし、安心して子供を育ててほしいと思い会社を設立しました。
世帯一人当たりの所得を考えると、20代で174万円、30代の183万円しかありません。その中で、大手生命保険会社が売っている保険は平均1万5千円/月です。それでは、若い世代は保険料を払えないと思ったのです。
そうした状況から、保険料を半分にしようと思ったのです。
-- なぜ、保険料を半額に出来たのでしょうか?
出口: 保険料は、ビールと一緒です。なぜ、同じビールが、コンビニで購入すれば200円であるのに対して、居酒屋では500円するのでしょうか?それは、物件費、人件費がかかるからです。
それと同じことが保険でも起きています。日本の死亡率はどの生命保険会社が計算しても一緒です。そのため、純粋な保険料は一緒になるはずです。しかし、保険の価格は保険会社によって異なります。これは、実店舗の経費と人件費(インタビュアー補足:こういったものを付加保険料と呼びます)の問題です。
大手の生命保険会社は全国に1500店舗が存在します。それに対して、ライフネットはインターネットの中にしか店舗がありません。このため、保険料を安くすることが出来るのです。
-- ライフネットでは、業界でタブーとされていた付加保険料について情報開示を行ったわけですが、業界の軋轢は感じませんでしたか?
出口: 新規参入するということは、既存業界が嫌がるのは当たり前。軋轢がなく新規参入することはありえません。人と同じことをして儲かるはずがありませんし、大手の会社と同じことをして、大手に勝てる訳がありません。
業界のタブーはお客様のためではなく、業界を守るために存在するのです。新規参入するためには、お客様の支持を得ることが重要です。理念に沿って正しいと思うことを真っ正直にお客様に提示することが当社の根本理念なのです。'常識を疑うことから科学は始まっていく'という名言がありますが、既存の常識・慣習を捨て、何に基づいて行動するのかという理念がなければベンチャーの成功はないと思っています。
-- お客様のために正直になるとはどういったことでしょうか?
出口: 正直になることとは情報公開しかありません。情報を小出しにすると、お客様は疑心暗鬼になってしまいます。
どの業界においても売る側、買う側で情報のかたよりがあります。それをなくしていきたいと私たちは考えています。
現在までの保険業界の営業はプッシュ型の営業でしたが、ライフネットはプル型の営業です。誰もライフネットを買ってくれという人はいません。そのため、手数料など全ての情報を開示してお客様に考えてもらうことが重要なのです。ネットというモデル自体が、情報を開示して、お客様に選んでもらうということでしか存在しえません。お客様に正直でありながら、既存業界との軋轢もないといういいとこどりは出来ないのです。
-- 出口社長にとって、会社を経営してきた中で、いいとこどりが出来ないと感じた出来事は例えば他に何がありましたでしょうか?
出口: お客様からお電話があり、こんなことを言われたことがありました。「こんなに安い保険を作ってくれてありがとう。ただ、私はPCも携帯も持っていません。紙で申し込みたい。」
その際、私はその申し出をお断りするしかありませんでした。ライフネットのビジネスモデルはPC、携帯だからこそ安い保険料を可能にしているのです。もし、紙の申し込みを可能にした場合、紙をチェックし、打ち込むという作業が増えてしまいます。それでは、安い保険料を実現することが出来ないのです。 もし、「ライフネットはPCや携帯を持っていない人間は見捨てるのか」と言われれば、その通りだと答えるしかないのです。
-- 戦略を選んでいる時点でお客様を選んでいるということでしょうか?
出口: どんなビジネスでも、全国100%の人に同じサービスを提供するのは無理です。大手生命保険会社は「お客様から電話後、30分で伺います」とうたっていますが、大手生命保険会社でもカバー出来ない地域があります。全国一律のサービスは不可能です。このため、どこで割り切るかを決める必要があります。保険料の半額を提供するためには、残念ながら、弊社のサービスを提供できないお客様も存在しえるのです。
-- 計画の中に売上の予測はあったのでしょうか?
出口: 売上は金融庁に出した計画通りに進行しています。(インタビュアー補足:保険業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、行うことができません。また、財務の健全性を担保するため、約100億円の資本を必要とし、10年以内の黒字が見込めることが必要です。親会社に保険会社をもたない独立系の保険会社として免許を取った保険会社は1934年以降ありません。)
大きくは5年間で保有契約数15万件を目標にしています。現在は6万件ですが、毎月8%保有契約数が増加しておりますので、5年間で15万件は十分達成可能と思います。(インタビュアー補足:ライフネットの営業開始が2008年5月であるため、毎月8%で保有契約数が増加すると仮定した場合、5年で45万件の保有契約数になります。)
また、計画通り、20~30代のお客様が8割を占めています。日本の生命保険は毎年1500万件の新契約が存在します。ライフネットの契約数はこれからも伸びると考えています。
-- ライフネットのビジネスモデルでは販促にお金をかけることが非常に難しいと思うのですが、販促はどのようにされていますか?
出口: お金をかけずに、講演会と本の出版で認知度を高めています。 私も副社長の岩瀬も合わせて、講演会を年間200回行っています。本を書いたり、講演会で全国各地で話をする中で、メディアに取材にきてもらえるようなモデルにしています。このようなやり方のヒントはさわかみ投信株式会社の代表取締役の澤上さんに教えていただきました。
-- 採用はどうしているのでしょうか?ベンチャー企業の大変さはなかったでしょうか?
出口: 情報発信をすることで人が集まりました。特に、副社長の岩瀬のブログを見て人が集まりました。
弊社の理念に共感してくれ、まだ会社創業前(保険業の許可が出るまで)から他の会社を辞め、弊社に来てくれた社員がいます。だからこそ、会社のために一生懸命働いてくれると思うのです。社員の仲もいいですし。
社員が70人しかいませんし、創業後3年ですが、運動部は8つあります。マラソン部は去年の那覇マラソンに初挑戦し、全員完走しています。会社自体は3年目でまだ赤字ですし、補助金はまだ出せていないのに皆自発的に行動をしています。
-- 採用の基準は会社を好きなことでしょうか?
出口: それもありますが、基本は自分の頭で考えることが出来る人を雇っています。ベンチャーは人と同じことを考えていては勝つことが出来ません。そのため、人とは違うことを考えることが出来る人を採用しています。
昨年から定期採用を行っていますが、新卒の定義は30歳未満とし、難しいテーマを与えて、論文のみで評価しています。論文を書かせるということは、その人が他の人と違うことを考える力を持っていることを見ること、また、そのアイディアを数字とロジックでビジネスプランとして作成する力があることを見ています。
情熱があり、同時に自分で行動できる人材を弊社は必要としています。
-- では、次に質問を変えて、戦略をいかに組織に落としているのかについてお聞きしたいと思います。
出口: ライフネットは定年がない会社です。定年がないということは、年功序列がないということです。もし、60歳という定年がある場合、60歳に向けて、役職を上げてあげる必要があります。つまり、定年があるということは、年功序列とセットの考え方だと思います。
一方、弊社では、10数人いるマーケティング部門の部長は29歳で部長になりました。能力主義を徹底しているのです。
また、女性の活用もさかんです。保険業界は女性セールスが多い業界ですが、47社ある保険会社の中で、女性の常勤の取締役がいるのは、ライフネットのみです。
我々のお客さまが20代~30代だからこそ、webサイトを作成しているマーケティング部もお客さまの目線で考えられる20~30代が多数なのです。お客様が困っていることをより知っているのは、同じ年代、同じ性別なのです。
銀座で買い物しているのはほとんど女性です。物を買うのが女性ならば、女性の琴線に触れるものを作るためには、供給側に女性がいる必要があるのです。女性に活躍してもらうのが、日本経済を復活させる鍵だと思います。
-- では、評価は完全に能力主義なのでしょうか?
出口: はい。能力の評価が年俸制度として反映されます。評価にはマニフェストを使用しています。マニフェストを左に書き、それに対して、今年は自分が何をしたのかを右側に社員に書いてもらっています。それは、事務職であっても同じです。後は、個人の成績とグループ全体の掛け算で評価しています。人間は公正な評価を求めます。このため、出来るだけ数値化することで評価しようと努力しています。
弊社の場合、個人の成績はマニフェストに沿って能力を評価しています。評価する際には、マニフェストの項目に対して評価を数値化し、能力を客観的に見える化するようにしています。評価は半年ごとに行っています。。
まず、次の半年の目標設定を行い、半年後にその目標に対して評価するというしくみです。評価の際には社員に書いてもらった自分の評価を元に、部長からのフィードバックを行い、社員と部長の評価のずれに双方が納得するまで話し合いを行うとともに、次の半年の社員がしたい目標と、部長のやってほしい目標が一致するまで議論させます。
その後、役員全員で社員の評価を行っています。マニフェストの各項目で、ランクがアップしたと評価された場合は給料のランクアップをみとめております。 しかし、弊社は年次による給料のベースアップはしておりません。それは、株主からしてみれば、まだ2年しか立っていなくて、赤字の会社がベースアップするのは違和感があるためです。
-- 会議設計はどうしているのでしょうか?
出口: 会議は必要があったときにのみ開催しています。開催は目的をはっきりした上で、必要だと感じた人が提案することにしています。また、社内の会議では、報告・確認は基本、30分。議論は1時間としています。
また、会議では紙を追放しています。データはプロジェクターでスクリーンに映しています。
弊社にはほとんどルールがありません。皆が自分で考え、行動しています。組織は、部長(管理者)がいなくても、回るのが理想です。
組織経営の根幹は誰かがいなくても、自分で行動できる組織を作るのが最も強いんです。お互いがお互いを助け合い、考えて行動できる、誰もが下手であっても全てに対して守備で切る会社を目指すのが最も理想だと私は思います。
編集後記
私は、会社の根幹は理念だと思います。理念がない会社は成長しないと思います。
同時に、10億以上の会社であれば、理念と同時に戦略も必要と感じます。
理念を現実にするために、物事を一から考え直し、論理を組み立てる。それが経営者に求められます。
理念を戦略にのせることで、売上は増加し、同時に理念に共感した人が集まる。だからこそ、ルールの会社が生まれるのだと思います。
ところで、今回のインタビューは東北大震災の直後に行われました。その際、私が最も印象に残った言葉があります。それは、「今後の日本を復興させるのは、運良く地震を逃れることが出来た我々です。世の中には自粛ムードがあるが、自粛していても経済は良くならない。日本を復興させるためにも一生懸命働きましょう」という言葉です。日本における課題を我々はもっと真剣に考える必要があると私は感じました。
インタビュアー 志水 康裕
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